
大学で英語関係の仕事をしているということもあって、学生からよくこのような質問を受けます。
「何かオススメの海外ドラマありませんか? できれば、英語学習の点でも役立つものがいいんですけど」。
確かにここ10年くらいの間、海外ドラマを通じて英語を勉強する人の数はぐんと増えました(私もそうです)。
ですから、上のような学生の質問は、かなりの程度どの英語学習者の方にもあてはまると考えられます。
そこで、本記事では、私が最近観た中でこれはと思った作品を皆さんにご紹介したいと思います。
それは『THE HEAD』です。2020年6月12日に世界公開された海外ドラマ(国際ドラマ)で、山下智久さんが主要キャストの一人として出演されたことでも話題を呼びました。
(なお本作はHulu以外の動画配信サービスでは観られません。Hulu公式HPはこちら。)
ということで、本日のテーマは以下の通りです。
✔︎ 本日のテーマ:
『THE HEAD』の内容と、そこから英語学習者が学びとれることを紹介する。
✔︎ 本記事のフローチャート:
- 『THE HEAD』の内容紹介
- 英語話者の多様性
- 山下智久さんの英語
- 役立つvocabulary集
それでは、早速順番にみてみましょう。
1. 『THE HEAD』の内容紹介

舞台は「ポラリス6」という南極の科学研究基地。太陽は昇らず、雪と氷と闇に包まれた冬の半年間、10名の越冬隊が基地に残り研究活動やその他任務を続けることになりました。しかし、任務期間の最後の3週間、外部からまったく連絡が取れない状態になってしまいます。冬が明け、夏期隊員たちが不安を抱えながら再び南極を訪れると、基地は荒れ果てた状態に。わかってきたのは、越冬隊員たちの内部対立と凄惨な殺人事件が起こったということ。発見された7名の死体、2名の行方不明者、1名の生存者。一体何があったのか…。唯一の生存者と夏期隊員のリーダーが交わす会話を皮切りに、真相が少しずつ明らかにされていきます。
ネタバレしたくないのでこれくらいにとどめますが、本作は、間違いなく本格的なサスペンス・サバイバルスリラーです。
鑑賞中は、犯人は誰なのか、その動機は何なのか、ぐるぐる考えさせられました。テンポのよいストーリー展開ゆえに、一気に最後まで観てしまったという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
非常に脚本がよく書けていて飽きがこないストーリー展開ですし、個人的には、must-watchな作品として家族・友人・学生に強くオススメできる良質のドラマを見つけられたという思いです。
(ほんの少しだけですがグロテスクなシーンもあるので、その点はちょっとだけ注意です。)
6話完結、各エピソードが約1時間とちょうど良いサイズなのも個人的にはよかったです。海外ドラマにときどきある「永遠に終わらない感がある作品」ではまったくないです。
(本作と同じように文明と隔離された環境を舞台とするサスペンス・サバイバルスリラーとして『LOST』があげられるかもしれませんが、こちらは本当にいつ終わるのという感じで、ついていくのが大変でした…。)
『THE HEAD』の内容についてはこの程度に留めておこうと思います。
ともかくとても素晴らしい作品です。英語学習も兼ねて、是非ご自身でその面白さを体感していただけたらと思います。
気になった方は、こちらの『THE HEAD』の公式HPをご覧ください。
2. 英語話者の多様性

英語学習者が本作に興味を持つポイントの一つは、多様な国出身の俳優がキャストされているため、様々なアクセントの英語を聞くことができるという点にあると言えます。
もちろんキャストは全員非常に流暢な英語を話しているので、それぞれの母語が強く現れた独特なアクセントがはっきりと聞こえてくるという感じではないです。
それでも、微妙なアクセントの違いを楽しむことはできます。
メインキャストの出身国を見てみることにしましょう。
役名 | 俳優名 | 出身国 |
ヨハン・ベルク | アレクサンドル・ウィローム (Alexandre Willaume) | デンマーク |
マギー・ミッチェル | キャサリン・オドネリー (Katharine O’Donnelly) | イギリス |
アーサー・ワイルド | ジョン・リンチ (John Lynch) | イギリス |
アキ・コバヤシ | 山下智久 (Tomohisa Yamashita) | 日本 |
エリック・オスターランド | リチャード・サメル (Richard Sammel) | ドイツ |
アニカ・ルントクヴィスト | ローラ・バッハ (Laura Bach) | デンマーク |
エバ・ウルマン | サンドラ・アンドレイス (Sandra Andreis) | スウェーデン |
ヘザー・ブレイク | アメリア・ホイ (Amelia Hoy) | アメリカ |
ラモン・ラザロ | アルバロ・モルテ (Alvaro Morte) | スペイン |
マイルズ・ポーター | トム・トーレンス (Tom Laurence) | イギリス |
ニルス・ヘドランド | クリス・ライリー (Chris Reilly) | イギリス |
(トム・ローレンスさんだけネットでは国籍・出身を見つけられなかったのですが、アクセントから判断するにおそらくイギリス人です。例えばこちらのインタビュー。)
一目でわかる通り、かなり多様な出身国のキャスト陣ですよね。
もちろんこうしたキャストの配置は、本作が「日欧共同制作」であることと深く関わってはいるのですが、他方で「無国籍の地・南極」という舞台を的確に反映してもいます。
イギリスに留学していた私としては、頻繁にイギリス英語が聞こえてきたのは嬉しいことでした。なにせ主要キャストの中にイギリス人が4人もいるんですから。
ただし、上の一覧では単に「イギリス」とだけ書きましたが、イギリス(*)という国家(state)は、実は4つの国(four nations)で成り立っていることにも注意が必要です。その4つとは、イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドです。ウェールズ、スコットランド、北アイルランドはそれぞれ、別々の政治・経済・教育・文化にかんする制度を持っています。
(*イギリスの正式名称は「グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国」(United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland)です。)
イギリス人の4名のキャストをこの観点から分けてみると以下の通りとなります。
- マイルズ:(おそらく)イングランド人
- マギーとニルス:スコットランド人
- アーサー:アイルランド人(ただし、独立国のアイルランド共和国ではなく、イギリス内の北アイルランドの出身)
マギーはスコットランドの最大都市グラスゴーの出身という設定ですね。ドラマの中で彼女の身元調査書が一瞬映るのですが、そこでそのように記載されていました。
マギー、ニルス、アーサーが話す英語は決して強いScottish accent、あるいはIrish accentではありません。
しかし、こうした「イギリスの多様性」という細かな点にも留意していることからも、制作陣は意図的に多様なバックグラウンドを持つキャストを人選しようとしたのだなということがわかってきます。
これらのことを踏まえ、本作を通じて英語学習者が実感できることをまとめてみます。
- 英語を母語とする人々といっても多様性があるのだということ
- 英語を母語とする人とそれを第二言語として学んだ人が混ざり合って英語を介してコミュニケーションする場が当たり前のようにすでに存在していること
世界の英語話者は20億人以上いると言われています。しかし、そのほとんど(約8割)がネイティブ・スピーカーではありません。
英語が話されている世界とは、ネイティブではない人々が当たり前のようにそこに参加している、さらには参加することができる世界です。学ぶべきことは学びつつ、自信をもって参加していくことが大事です。
英語を第二言語として学びつつ自信を持って英語の世界に参加している代表者として、山下智久さんの名前をあげることができます。言うまでもなく、本作のキャストの一人です。
次に、彼の英語についてコメントしてみようと思います。
3. 山下智久さんの英語

本作で山下さんの英語を聞き、最初に瞬間的に思ったのは「すごいうまい!」ということでした。
山下さんが英語を勉強していることを知ったのは、何年か前に偶然観たテレビ番組でだったと思います。そのときはまだ本当にbeginnerで、基本的な文法とか発音を習っているという感じでした。
そのときの印象から何も追加的情報がないまま本作の山下さんの英語を聞いたので、正直とても驚きました。
英語を少しでも勉強したことがある人ならわかると思いますが、ほとんどの日本人にとって英語はちょっと勉強してすごくうまくなるという感じの言語ではありません。流暢な英語が話せるようになるには多くの時間と労力が必要ですし、成果の上がり方に浮き沈みがある分、気持ちのコントロールとモチベーションの維持も大事になってきます。
ですから、『THE HEAD』の山下さんの英語からは、ぱっと瞬間的に気がつくうまさだけではなく、その向こう側にある彼のこれまでの真摯な努力と、絶対にうまくなるんだという真剣さをはっきりと感じとることができました。
山下さんの流暢な英語を形作っている要素は様々あるのですが、特に私は発音が優れていると思いました。
例えば、「単語と単語の連結」(リンケージ, linkage)や「イントネーションの強弱のつけ方」はとてもうまかったです。
リンケージとは、二つの単語がつながって発音されることで音が変化することを言います。例えば、”Did you”が「ディジュ」のようになることです。
「イントネーションの強弱のつけ方」は、はっきり聞こえる音とかすかに聞こえる音のリズムの取り方のことです。エピソード4の冒頭で山下さんが”Do you want to take over?”と言うシーンがあるのですが、このセリフを”Do you want to take over?”(太字が強いイントネーション)と波打つように発声していて、とてもnaturalでした。
山下さんの声や姿勢・態度もすごく印象的でした。
彼独特の少し鼻にかかった低い声から発せられる英語は、何か抱えたものがあることを感じさせる役柄にマッチしていたように思います。
堂々と自信をもって演じていたのも印象に残りました。大げさなリアクションはなく、落ち着いた感じで、彼の声の特徴も相まって、mature(成熟した)でdown-to-earth(地に足のついた)な大人というイメージを観る人々に与えたように思います。
整理してみましょう。
日本人英語学習者は山下さんから少なくとも3点非常に重要なことを学びとることができます。それは、以下の3点です。
- 日々の小さな積み重ねが大きな成果を生むということ
- 発音をしっかり習得すべきであるということ
- ネイティブ・スピーカーの前でも堂々と話すこと
今後、山下さんは、第二言語として英語を学ぶ日本人の一つのモデルとなっていくのかもしれません。
この先彼の英語を使ったキャリアがどのように進展していくのかとても楽しみです。
4. 役立つvocabulary集

最後に、本作『THE HEAD』の中に見つけることができる重要な英語表現をピックアップしてみます。
初めてみる表現もあるかもしれませんが、程度の差はあれ、ネイティブがよく使うものです。
- be in the middle of nowhere: 【副】人里離れた場所で
- it happens:そういうこともあるよね、よくあることだよ
- get a hold of A:【句動】Aをつかむ;Aを手に入れる
- newbie:【名】新入り
- game changer:【名】大きな変革をもたらす人・物
- get on the nerves:【句動】いらいらさせる 例)He is getting on my nerves.「彼は私のことをいらいらさせる」
- keep track (of A):【句動】(Aの)経過をたどる、記録をつける
- suit up:【句動】きちんとした服を着る、正装する、お洒落する
- cagey:【形】話したがらない;抜け目がない
- color inside the lines:【句動】決められたルールに従って考える・行動する
- bend over backwards [backward]:【句動】全力を尽くして取り組む
- hearsay:【名】うわさ
- stick one’s nose in A:【句動】Aに口を出す・干渉する
新しい英語表現に出会うことができるのも、海外ドラマを見ることの大きな醍醐味の一つですよね。
まとめ
本記事の内容をあらためて整理すると以下の通りとなります。
- 『THE HEAD』はmust-watchなオススメ海外ドラマである
- 英語の世界は非常に多様性に富んでいる
- ネイティブでなくとも、英語の世界に自信をもって参加することが大事
- 英語を学ぶ日本人にとって山下智久さんは一つの優れたモデルとなりうる
本作をもしまだ観ていない方がいらっしゃったらぜひ。
一度ならず、二度三度と楽しめますよ。
本作それ自体、あるいは山下さんの影響で英語学習を楽しむ人が増えることを願っています。
Let’s look on the bright side of life!
ブログ主のプロフィール:
大学で英語とイギリス文化を教えています。イギリスに5年間留学していました。英検1級。本ブログでは主に英語学習とイギリス文化について記事を書いています。
Twitter: @camp_hakase
とてもわかりやすく解説されていて、次にまた『THE HEAD』を観る時、違った角度からも楽しめそうです。私はドラマ制作の背景などを知ることが好きなのでとても面白かったです。
私は英語を話せませんが、山下さんの英語は発音がとてもいいように感じていました。日本人の話す英語は、日本人だなとなんとなくわかるものですが、山下さんの発音はそれが感じられません。以前山下さんがラジオで、母国語以外を話す時でも母国語のイントネーションや強弱などが長年にわたり染み付いているので無意識にそれが出る気がする、と言っていたのですが、面白いことに気づくなぁと感心すると同時に、確かにそうかもと納得してしまいました。
本当は『THE HEAD』が始まるまでに字幕無しで聴き取れるようになりたかったのですが間に合いませんでした。でもこれからも山下さんの話す英語が聴き取りたいので少しずつでも勉強したいと思います。
素敵な記事をありがとうございました。
ずいぶん前にコメントを寄せてくださっていたのに、ご対応するのが遅くなってしまって大変申し訳ありませんでした。ブログを始めたばかりということもありコメントをいただくのも初めてでしたので、何をどうするのかあれこれ手探りしているうちに時間をとってしまいました。すみませんでした。
ブログを読んでくださり感謝申し上げます。少しでも面白いと感じていただけたのでしたら大変光栄です。書いてよかったです。
「母国語以外を話す時でも母国語のイントネーションや強弱などが長年にわたり染み付いているので無意識にそれが出る気がする」というのは、おっしゃるとおり面白い感覚ですね。ということは、『THE HEAD』で聞くことができた山下さんの英語のイントネーションは、トレーニングで獲得された部分もいくらかあるとしても、多くは山下さん「本来のもの」なのでしょうか。今までは、言語が変わると雰囲気が変わる人が多いのかなと思っていたのですが(例えば、日本語を話しているときはおっとりしている感じなのに、英語を話し出すとアグレッシブな雰囲気になる、など)、そうではない場合もあるのですね。確かに、山下さんは、英語を話しているときと日本語を話しているときの雰囲気に大きなギャップはないようにも思います。ともかく、面白い感覚・視点ですね!
今後も山下さんは映画やドラマで英語を話す役をやられていくのでしょうから、それに向けて勉強を続けるというのはとてもよい動機ですね。できる範囲で、少しずつでよいと思います。頑張ってください。応援しています。
まだまだいろいろ手探り・試行錯誤なのですが、今後も奥山さんのような英語学習者の方々に役に立つ情報を書いていくつもりですので、時々ブログをのぞいていただけると嬉しいです。コメントしてくださり本当にありがとうございました。
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