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『THE HEAD 前日譚:アキ・レポート』【本の紹介・解説】

投稿日:2020年10月18日 更新日:

本ブログで以前、海外ドラマ『THE HEAD』(2020)についてご紹介しました。南極の科学研究基地で起きた連続殺人事件を描いたサバイバルスリラーです。(その記事についてはこちらをご覧ください。)

この海外ドラマのスピンオフノベルが2020年7月に出版されました。江坂純『THE HEAD 前日譚:アキ・レポート』です。

本作の主人公は、小林亜綺(こばやしあき)という南極基地で研究に従事する日本人微生物学者です。山下智久さんが演じたことでも話題になりました。

ドラマ本編では、アキの生い立ちや経歴などに関する詳細は十分明らかにされないままでした。

本作は、そうしたアキのバックグラウンドを垣間見せてくれる作品となっています。そのため、アキという人物について、あるいは『THE HEAD』の背景についてより深く知りたい方にとっては、必読の書となってくるかもしれません。

そこで、本記事では、本質的なネタバレを含まない程度に本作をひもときながら、アキのバックグランドを紹介・分析していきます。

本記事は、ドラマ本編『THE HEAD』を観ていないと何がなんだかよく分からない内容となっておりますので、まだの方はまずそちらをご覧ください。6話完結(1話1時間)で、見始めたらあっという間です。

動画配信サービスHuluのオリジナルコンテンツですので、視聴するためにはHuluと利用契約を結ぶ必要がありますが(月額1,000円ほど)、2週間の無料トライアルもあります。英語の勉強にもなりますよ。

(Huluの公式HPはこちらから。)

✔︎ 本記事の内容:

『THE HEAD 前日譚:アキ・レポート』を読み分かったアキのバックグランドについて、ストーリーの根本的なネタバレなしに紹介・分析する

ドラマ本編は観たけど『アキ・レポート』はまだ読んでいない、あるいは、『アキ・レポート』は読んだけどもう少しいろいろ考えてみたいことがあるといった方々が読むとおもしろい記事内容となっているかもしれません。

✔︎ 本記事のフローチャート:

  1. アキの年齢・経歴・外見
  2. アキが南極に行きたかった理由
  3. 【推測】最終的にどのようにアキはアーサー・ワイルドのチームの一員に選ばれたのか

「3」については本作でも十分解明されていないので、断片的な情報をもとにあれこれ推測しながら論じてみました。

なお、本作の内容が著者の江坂さんの創作であるのか、あるいはある程度でも原作者のパストール兄弟がつくった設定に準拠したものなのかについては、あれこれ調べてみましたが結局わかりませんでした。

ですので、この点についてはひとまず棚上げにして記事を書いていこうと思います。

1. アキの年齢・経歴・外見

アキの年齢は26歳です(南極に行ったのはおそらく27歳の時)。

「4年前、帝都大学を首席で卒業した」(p. 14)、「帝都大学に現役で合格した」(p. 181)(=大学浪人はしていない)と書かれてあるので、まず間違いないでしょう。

演者の山下さん(2020年10月現在35歳)より10歳近く年齢が低い設定ですね。

22歳で帝都大学を卒業したあと、アキはデンマークにわたり大学院生活を開始します。

デンマークの大学院は、最短で卒業した場合、修士課程2年・博士課程3年ですから、26歳のアキは博士課程の2年目か3年目ということになるでしょう。

本作の冒頭でも、博士課程終了(=博士論文を提出し博士号を取得)の直前であると書かれています。

デンマークでどの大学院に通ったのかは書かれていません。しかし、実在する大学であれば確実にコペンハーゲン大学でしょう。デンマークには8つしか総合大学がありませんが、コペンハーゲン大学はその中でも最上位のランクです。

アキが日本で通っていた大学は「国内最難関」の帝都大学で(東京大学がモデルでしょうね)、入学も卒業も首席ですから、デンマークでもそれ相応の大学院に通っていたと考えるべきです。

アキの出身は山形県です。実家は酒蔵を営んでいました。酒造りと微生物の関係が深いことは言うまでもありません。アキが微生物学者を目指した理由の一つは、実家の家業にあります。

アキが冬は雪に覆われる山形生まれと知って、南極生活の耐性はここで培われたのだなと想像しました。ドラマ本編の第1話で描かれたように、アキがnewbie(新入り)の仲間とともに下着だけ身につけて極寒の戸外へ出る「チャレンジ」を平然とやってのけたのも腑に落ちました。

ちなみに、その仲間の一人マギーも寒冷地域スコットランドの出身ですね(スコットランドはスコッチウイスキーで世界的に有名なので、ちょっとした「お酒つながり」でもあります)。

アキの外見については、「超素敵美男子」と一言で表してしまってよいと思います(笑)。
冒頭の3つの段落を引用するだけで十分伝わるでしょう。

ただそこにいるだけで、人の目を惹いてしまう人がいる。 

小林亜綺は、まさにそういう人だった。素っ気ない白いシャツを着て日陰に立っているだけなのに、誰より目立って後光を放ってしまう男。 

インスタをのぞけば美男美女がいくらでも拝める時代だけど、この人の顔の整い方はちょっと異次元だ。なめらかな二重と、形のいい眉、すっきりとした瞼、そして涼しげなアーモンドアイ。混じり気のない黒ひと色の瞳は、信念の強さを感じさせる深い意思に満ちている。それでいながら、どこか子供のようなあどけなさも漂わせるのは、形のいい涙袋のせいだろうか。正面を見つめているときの眼差しは誰よりも凛々しいのに、少し目を伏せると途端に美しい睫毛の並びが露になって、どこか女性的な儚さをも感じさせる。(p. 8)

名前にも象徴的に表れていますね。「亜綺」=「亜細亜・綺麗」(Asian Beauty)です。

“Asian Beauty”は大抵の場合女性に使われることが多い気がしますが、女性的な雰囲気をもったアキに対してはふさわしいと考えられたのでしょうか。

2. アキが南極に行きたかった理由

アキが南極行きを志すようになったのは、彼の家族が大きく関係しています。

前述の通り彼の実家は酒蔵を経営していました。そのため、小さい頃から、酵母菌や麹菌といった微生物の世界に自然と興味を持つようになったのです。

アキには兄が一人いるのですが、その兄がある日南極で新しい微生物が発見されたことをアキ少年に教えることになります。そこで次のように述べます。

アキ、お前も将来南極に行けよ。科学者になって、それで、もっとすっごい微生物を発見したらいい。(p. 93)

兄の言葉はアキ少年の心にささります。

それ以来アキは、南極行きをしっかりと見据えながら勉学に励み帝都大学へ進学することになるのです。

アキは「流行りを追いかける若者」とは程遠く(ラインはやってるけどインスタはやってない, p. 43)、自分の信念を貫くタイプです。必死に勉強したことでしょう。

おそらく、将来のことを見据えて英語学習を開始したのも、大学進学前後のことだと思います。留学先でのコミュニケーションのほとんどが英語で行われたと仮定しても、しっかりとした土台がないと4年間の留学期間であそこまでペラペラになるのは難しいでしょうから、前もってしっかりと英語学習を進めていたはずです。

南極行きに向けて順調にキャリアを形成していっていたアキですが、しかし、それが非常に困難になる出来事が起きます。それが実家の酒蔵の倒産です。

これにより家族からの金銭的支援を期待できなくなってしまったため、アキは大学卒業後、大学院進学ではなく一般企業に就職することを考えるようになります(この選択はまた両親を安心させるためでもありました)。長年アキの南極行きを支援していた兄も、このときまでには他界していました。

しかし、就職活動中にアキの気持ちを研究へ引き戻す重大な出来事が起こります。

それが、ドラマ本編でも重要人物として出てくるアーサー・ワイルドの研究チームによる、南極での世界的な大発見です(二酸化炭素を固定化する、つまり地球温暖化問題を根本的に解決する可能性を秘めたバクテリアを発見します)。

このニュースを聞いたアキは、兄の言葉、兄との約束を思い出します。

もう酒蔵はないけれどーーもしも自分が南極に行ったら、兄の夢を半分でも叶えたことになるだろうか。(p. 188)

アーサーの研究は、ドラマ本編でも語られるように、それまでの研究を大きく更新するという意味で「game changer」(大変革をもたらすもの)でした。しかし、それは、実はアキの人生そのものにとっても「game changer」だったのです。

これ以降アキは、意思を曲げることなく、兄の言葉を繰り返し思い出しながら、南極行きを目指して研究に邁進することになります。

アキが日本ではなくデンマークの大学院に進んだのも、デンマークが南極探査に積極的で、これまでも数多くの科学者を南極に送り出していたからです。

デンマークでも、担当教授に熱心に南極行きという目標を伝えていたようです。

というのも、その教授から「この調子で研究を続けていれば、いつか南極探査に召集される日が来るよ」(p. 14)と言われていたからです。

南極行きはまさしくアキの全人生をかけた挑戦だったと言えます。
(それだけに、ドラマ本編で描かれるように、南極でアキがあのような結末をむかえてしまうことを知るといろいろと感じ入ってしまいますね。。)

3. 【推測】最終的にどのようにアキはアーサー・ワイルドの研究チームの一員に選ばれたのか

これについては本作でも十分には根拠が示されなかったように思います。

アキはアーサーにアピールする手段としてメチロコカス・オパカスという微生物の採取にのぞむのですが、あと一歩というところで研究は頓挫してしまいます。これによって、アーサーの友人でもある帝都大学の浜田教授からの推薦を受けられなくなってしまうのです。

それにもかかわらず、アキは結果的にアーサーの研究メンバーの一員として招集されることになりました。これはなぜだったのでしょうか?

本作で示されている理由は、浜田教授のセリフの中にして出てきません。それは、「彼〔アーサー〕は自ら論文を読んで、実力があると判断した研究者を自分でスカウトすることにしたらしい」(p. 228)というものです。

たしかに、アキは優れた論文を多く執筆しており、TJIDという権威ある国際ジャーナルでも研究を発表しているようです。

しかし、はたしてそれだけでチームに選ばれるでしょうか? 言い換えると、南極探査というgroundbreakingな(革新的な、画期的な)成果が期待される研究チームに、研究能力しか分からない見ず知らずの若者を選ぶでしょうか?

研究能力は大事です。でも、性格やパッション、言語的コミュニケーション能力は、長期にわたって共に文明から切り離された状況で研究する際にはとても大事になってきます。アーサーはそれまでアキと面識はなかったので、こうしたアキの「人間的」側面を知る余地は一切なかったはずです。

この人選はアーサーにとって極めて重要なものでした。なぜなら、南極で冬の期間基地に残り研究に従事するのは、アーサーとアニカ、それにもう一人だけだったからです。つまり、アーサーが探していたのは「最後の残り1枠、3人目の研究員」だったことになります。

実際に、越冬隊のなかに研究者はアーサー(生物学者)、アニカ(遺伝学者)、アキ(微生物学者)の3人しかいません。

他の越冬隊メンバーは、マギー(医師)、エリック(元軍人の基地隊長)、エバ(看護師)、ヘザー(コンピュータ関連担当)、ラモン(調理師)、マイルズ(通信担当)、ニルス(基地技術者)です。この中に研究者は誰もいません(マギーは医師ですが、研究が任務ではありません)。

そうした大事な「残り1枠の研究員」を、会ったこともない日本人にあてがうとは到底考えられません。

ここからは私の完全なる推測ですが、この人選にはデンマークのアキの指導教授が深く関わっています。おそらくこの指導教授はアニカ(デンマーク人)と知り合いで、裏でアキを強く推薦したのだと思います。

指導教授は、前述の通り、アキが南極行きを強く望んでいたことをよく知っていましたし、アキの研究能力のみならず性格や言語能力も熟知していたはずです。この指導教授とアニカが知り合いだと推測されるのは、これも前述の通り、デンマークには総合大学が少ないことも影響して、学者数がもともと相対的に少なくその分だけ学者間のネットワークが密だと想像されるからです。研究分野もそれほど隔たっているわけではありません。

ですから、アニカがアーサーにアキについて話題に出した可能性は大いにあり得ます。

おそらく浜田教授が推薦した米原も含めて、アーサーの納得のいく人材がテーブルの上に並ばなかったのでしょう。その結果、アキに白羽の矢が立ったのです。

おそらくアキの指導教授は、そのように南極行きを暗にサポートすることで、突然デンマークの大学院を退学し帰国してしまったアキを再び呼び寄せたかったのだと思います。それほど指導教授はアキのことを高く評価していたのです。

南極でのアキの運命を知って、あるいは越冬隊全体の運命を知って、この教授が何を思ったのか。心中推し量るしかありません。

話は戻りますが、南極行きを第一に考えた場合、アキは浜田教授の推薦が得られなくて正解だったと個人的には思っています。

というのも、浜田教授は一流の大学人・研究者ということになっていますが(というかアキはそのように考えていますが)、実際その通りだったかは疑わしいからです。言い換えるならば、国外でも大家として認められるほどの研究者だったかどうかは疑問が残る、ということです。

理系では共同研究がメインで、優れた研究実績を残すには、優秀な研究協力者・助手・部下を持つことが必要不可欠です。その観点から考えると、米原と麦野というやる気も能力もない研究者を手元に置いてしまっている浜田教授はかなり脇が甘く、世界レベルでの研究成果を続々と出せるような人物には思えません。

時に狡猾な表情を見せる浜田教授は学内の政治的駆け引きには強そうなので、実際の研究成果よりもそうした手腕を使って帝国大学教授(そして日本の微生物学会のドン的存在)にまで登り詰めたのではないでしょうか。しかし、往々にしてそうしたステータスは海外では通用しません。

ですから、浜田教授はアーサーと長年の友達だと誇らしげに語っていましたが、それがどれほどのものだったかは疑わしいということになります。少なくともアーサーとアニカの「近さ」には遠く及ばなかっただろうと思います。

浜田教授の推薦はもしかしたら「それほどたいしたことのない日本の研究者の推薦」くらいにしか扱われず、人選においてむしろマイナスに響いた可能性があります。仮に浜田教授の推薦が得られていてそれで研究チームの一員に選ばれていたとしても、決め手となったのは浜田教授ではなくデンマークの指導教授からの熱心な推薦だったのだろうと想像します。

まとめ

以上、本作を読んで分かった・考えたアキのバックグランドについて、いろいろと紹介+分析してみました。

特に「3」についてはほぼ完全な推測ですので、違う意見をお持ちの方もいらっしゃると思います。もしよければ、コメント欄やTwitterご共有させていただけると嬉しいです。

冒頭でも述べましたが、本作は、アキ個人や『THE HEAD』の背景についてより深く知りたい方にオススメの作品となっております。

以下にリンクを貼っておきますね(ドラマ本編『THE HEAD』の小説版もオススメなので、そのリンクも一緒にしておきます)。

【アキ・レポート:文庫版】


スピンオフノベル THE HEAD 前日譚 アキ・レポート (集英社オレンジ文庫)

【アキ・レポート:Kindle版】


スピンオフノベル THE HEAD 前日譚 アキ・レポート (集英社オレンジ文庫)

【本編『THE HEAD』小説版:文庫版】


ノベライズ THE HEAD (集英社オレンジ文庫)

【本編『THE HEAD』小説版:Kindle版】


ノベライズ THE HEAD (集英社オレンジ文庫)

それと、私がこれまで書いた『THE HEAD』関連の記事2つのリンクもまとめて貼っておきます(1つは冒頭で紹介したものです)。よければこちらもご覧ください。

ブログ主について:

大学で英語とイギリス文化を教えています。イギリスに5年間留学して博士になりました。本ブログでは、主に英語学習とイギリスの歴史や文化について記事を書いています。

Twitter: https://twitter.com/camp_hakase


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